2012年11月05日

気づかれにくい特性

ねぇ、最近ピアノ弾くときさ、ちゃんとわかって弾いてるよね?

「うん、そう。わかる♪」

前は、何が合ってて間違ってるか、
何をどうすればいいのかが、わからなかったのかな?

「えっとー、うん、そう!」

わかるっておもしろいよね。

「うん!!」


子どもたちが『わかる瞬間』って、
そばで見ているこっちもワクワクしてきます。


ともちゃん、4年生。
実は、ともちゃんがこんなに笑っているのは、
本当に久しぶりのことで、
こうなるまでの経過を思い出して、
ぐりはあまりの嬉しさに、熱くこみ上げるものがありました。


2年生になる前に よその教室からかわってみえて、
もうすぐ丸3年になります。

出会った頃は、明るくさっぱりとして、ハキハキ喋る女の子でした。
そんなともちゃんが、段々と笑わなくなっていったのでした。

以前のお教室での復習も兼ねてやさしめなものから始めて
順調に進んでいるようにみえていたのですが、
両手奏、リズムに少々苦戦するようになりました。

ぐりの教室にみえて半年過ぎたあたり
2年生後半・・・笑顔が消えたのは
その頃からだったように思います。


個人差はありますが、徐々にペースダウンしてしまうお子さんは
ぐりが教えることを始めてたときから数多くいましたし、
一般的にも子どもの頃にピアノを2〜3年で辞めたという人たちは、
だいたいこのあたりのレベルで
何かしら『壁』にぶつかっていることが考えられます。


学校での成績は優秀なともちゃん。
テストはほとんど100点ばかりですし、
体を動かすことも得意だし、
休み時間に一緒に遊ぶお友達もたくさんいます。

でも、ピアノを弾くことって、
そういうこととはあまり比例していないのです。


ここにペースダウンしてしまう生徒さんたちの特徴の一部を挙げてみます。

●何度も衝動的に同じ間違いを繰り返す
●間違えて覚えると修正するまでに時間がかかる
●合っているのか間違ってるかがわからない
●復唱が苦手、動作模倣が苦手、リズム感の弱さ
●ピアノを弾いている途中で楽譜や鍵盤を見失う
●動きがぎこちない、姿勢が保てない
●指示とは全く違う、ちぐはぐなことをやってしまう
 ・・・etc

ほんの一例ですが、
これらが複数に絡み合いながらドタバタ弾いているうちに
パニック的に何が何だか訳がわからなくなって、
焦ったり、泣きたい気持ちになったり、不機嫌になってしまうことが考えられます。


「何回言ったらわかるの!!」と厳しく叱責されまくるか、
ただただユルフワな時間を消化するだけになっていることもあるのでは。

しかし、実はこのような特徴を見過ごされたまま
いざ大人になったときに初めて発覚して社会に適応できず、
その原因もわからないままに
辛い思いをしていらっしゃる方は実は少なくありません。


ともちゃんのお母さんは、
ぐりと、ちぐはぐな答えや振る舞いをする様子を目の前で見続け、
「なんとかしなきゃ!」って、強く思われてしまったのかもしれません。


徹底した監視、管理のもとに、
ともちゃんにドリルドリル!!と、
ひたすら問題集のノルマを課す毎日にシフトなさっていかれたようで、
ともちゃんは、「帰ったら宿題してからドリルせんといけん…」と
いつも悲しい顔をしていました。

そのうち、ともちゃんはレッスンには来てくれるのですが、
次第に ぐりと目を合わせることがなくなり、
以前は楽しそうに学校でのことや、遊びにいったことの話を
たくさん聞かせてくれていたのに、
全く反応しなくなるまでに心を閉ざしてしまったのでした。


計算や漢字、問題集やタブレットといったことでは
なんの解決にもなりませんが、
やはり、大半の親御さんが思いつくところは
そういったものなのかもしれませんね。


そして、激動の夏休み。


「そうでした・・・ともを産んだとき、
ただ『慈しみの心をもった子に育ってくれること』だけを
願っていたということを、すっかり忘れていました・・・
ただそれだけでよかったのに・・・私ったらいつのまにか・・・
自分の思い通りにしたくて ともに厳しくあたっている・・・」


ホロホロと涙をこぼされる お母さん。
ぐりに話してくださっているようでもあり、
ご自身に言い聞かせていらっしゃるようでもあり。

『自分の思い通りにしたくて』
そんな思いがけない言葉がご自身の口から飛び出してしまったお母さんが、
自分自身に一番驚いていらっしゃるようでした。

お母さんのそんな様子に ともちゃんも心配したのでしょう。
その日は家に帰るなり、ともちゃんが晩御飯に卵焼きと野菜炒めを作ってくれたと
後日お母さんからメールを頂きました。

親の涙って、子どもにとっては本当にショックな出来事です。
ましてや自分のことで、お母さんが泣いていると知ったら。
優しいともちゃんに育っているではありませんか、お母さん!!


思春期でもあるし、通過儀礼的でもある親子関係を
上手く乗り越えてもらえたらいいな
ぐりは、そう思っていました。


ともちゃんに少し変化がありました。

ピアノ弾きよったらね、いつもお母さんが『そのリズムは違う!』とか言うんよ。
でね、ピアノの日はね、家に帰ったら 
『あそこで返事してなかった』『あのとき態度が悪かった』って言うんよ。
それもかなりキツくね。」


ともちゃんが、自分の言葉で 
ぐりに自分の気持ちを打ち明けてくれたのは初めてのことです。

「そうか・・・。ともちゃんが、言ってほしくないと思えば
『そういうの言ってほしくないな』って言ってもいいんだよ。
お母さんにホントの気持ちを言ってもいいんだよ。
親子だからね、もしちょっとケンカになっても、
さっきは強く言っちゃってゴメンねって言えば、
ともちゃんとお母さんならスグ仲直りできるし。
じゃぁ一緒におやつ食べよう!!って言ったら大丈夫よ」

こんなこと言っていいのかな・・・。
どういうふうに言ったらいいのかな・・・。

お母さんが全て決めて指示したり、
お子さんが、いつも自分の気持ちを飲み込み続けることを繰り返すうちに、
いつの間にか、自分はどうしたいのか、どのように感じるのか
どうすればいいのかが、
わからなくなっていることがあります。


それから半年が過ぎたあたりからでしょうか。
視るチカラ、聴くチカラ、
それに会話力、思考力、注意力、集中力が大幅にアップしてきました。

学校生活も充実していて、
とくに、音楽の先生からは歌唱力をみんなの前で褒めて頂いたそうです。

ピアノを弾いている姿も、
以前のように衝動的に何度も何度も間違えるようなことはなく、
ずいぶんとスムーズに弾けるようになりました。

そして、とても楽しい♪


ピアノは、取り組み方次第で音楽面はもちろん、
学業、運動、コミュニケーション、
様々な能力をを開花させ伸ばすことができます。

ピアノが弾けるということは
選択肢が増え、豊かに暮らせることにつながると、
ぐりは考えています。

ぐりのいう選択肢とは、
単に成績や進路とか職業とかいうことではなく、
『感情の選択肢』です。


また以前のように、感情を表にだせるようになってきたともちゃん。
ピアノでも、それを表現できるようになると、
もっともっと、ともちゃんの世界観をひろげられます。

少し焦って頑張りすぎてしまったお母さんですが、
気づかれて立ち止まり、素直に反省なさるなんて、
本当に、なんて素晴らしいお母さんだろうと思います。
これはできそうで、なかなかできないこと。本当に。


活発で成績もよく、それなりに過ごしているどこにでもいそうなお子さんの
気づかれにくい様々な機能の困難。
特に女の子はわかりにくいです。

ですが、レッスンしてみると、アレ?!というところはわかります。

小さい頃は、学校の成績は それなりによく、大丈夫そうに思えますが、
年齢が上がるにつれて、そうもいかなくなり、
人よりも何倍も頑張らなければ、
そのラインを保っていられなくなることもでてきます。

ともちゃんは、ちょうどそのタイミングだったのでしょう。
見違えるように生き生きとした表情になったともちゃん。
そして、そんなともちゃんが、お母さんの元気の源です。

もっともっと面白い世界が 
あなたを待っていますよ。

ぐりは、いつでも応援しています。



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この記事へのコメント
評判は聞いてるよ。
本当にすごい技術だね。
それに意識が高い親御さんばかり集まるね。
そのカリキュラムは、誰が受けてもピアノ、成績、人間性がバランスよく伸びるように個に合わせて組まれたものらしいけど、
やっぱり、指導力だよ。
ぐりさんなら何を使ったとしても、伸ばせる技術があるからね。
Posted by ぐっさん at 2012年11月07日 22:51
親ですね、母親ですね、家庭ですね

親の心のケアもしてくれるなんて
そんなピアノ教室、僕はきいたことがありません。

子どもの人格形成の大切な時期に、ぜひとも関わらせたい先生。
子どもは、先生の影響というものが強く反映される。

生きる力が養われている。
Posted by 通りすがり at 2012年11月09日 11:45
賢くなると、わかることがいっぱい増えて、楽しくなるってことですね!
私も子どもの頃ぐり先生のレッスン受けたかったです。
Posted by nao at 2012年11月09日 15:51
どなたの記事も、ぐりさんの配慮でさらっと書かれていらっしゃいますが、
本当は、きっと深刻な状況だったのだろうとお察しします。

親の意識が高くなければ、このカリキュラムの良さはおろか、
意味が理解できずにピアノを弾くのに必要ないなどと思われるでしょう。
ましてや、そんな親ほど図々しく、行儀もなっていません。

5年、10年後に大きな格差となっていたとしても、それすら気付けない広がらない子どもの未来。
そんな世界があることも、親子で知らないなら知らないままの方が幸せなのかもしれませんね。

確実に成果を出していらっしゃること、素晴らしく思います。
Posted by 茉莉音 at 2012年11月10日 01:40
 
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