2015年02月16日

磨かれる感性

「ボクねぇ、冬休みはピアノの旅にでるよ!」

1年前の冬休みにそんなことを言うトムくん、2年生。




新しくブルグミュラーを渡した時の言葉でした。

冬休み中に、今までやったテキストを全部おさらいすると言います。
なんて素敵な言葉を紡ぐようになったのだろうと、心が温まりました。


同じ音楽、同じ本、同じ映画・・何度も繰り返して味わうたびに、
また違った新しい発見があり、さらに味わいが深まりますね。
楽しみ方も、よくわかっていて素晴らしい。

毎週よく練習をしてくるトムくんです。
運動機能面や感覚機能面に困難を抱える生徒さんの中には、リズムが弱いタイプがいらっしゃるのですが、
トムくんもリズムパターンをなかなか覚えられなかったり、特定のリズムを引きずってしまったりと、
全身で四苦八苦する様子がしばしばみられます。

年中さんから始めたピアノ。
以前の彼なら きっとすぐに怒って泣きだしてしまい、レッスン中断のコースだったでしょう。

それが今では、真剣にできるまで諦めず、何度も何度も繰り返す姿が見られるようになりました。


「ボク、そのリズムね、家でやってみたの」
と、指示されていないことも、自分で思いついてどうすればできるようになるかを考えて行動する、
そんなことまでできるようにもなっています。

毎回必ず前回よりも向上させてきたり、うまくいかない箇所への取り組み方をみて、
『練習』の概念や『教わる姿勢』も、すでに備わっていることがわかります。

と言っても、ここまでの道のりは一言では語りつくせない程、大変なものでした。


レッスン時間よりも長い道のりを どんなに眠くてグズグズ言っても、
毅然とした態度で、トムくんの手を引いて連れていらしたお母さん。
毎日の練習の働きかけや、日々の徹底したフォローと見守りの積み重ねがあったからこそです。

参照記事
『癇癪のコントロールとレッスンの楽しさ』
『発達障害の子どもと親を支える療育ピアノレッスン』


週2回レッスンの4年半で、トムくんの様々な機能の向上がみられます。

「ボクねぇ、学校の話の聞きとりのテストでねぇ、100点だったんだよ。
100点は、クラスでボクだけだったの!!」


ハニカミながら教えてくれたことがありました。
読み書き計算だけでなく、そういうことに関心がおありな担任の先生のようです。感謝!


聞きとるチカラと音声に変換するチカラが弱く、自分主導の会話では困らないのですが、
歌うときはリズムの弱さも合わさって音楽についていけずに歌詞がでてこなくなり、
最初の頃は、いつも歌の時間は「もーッ!!」と怒ってすねていたトムくんです。

初めて聞いた言葉と口から出る言葉を一致させられた
「パパバナナ、ママバナナ、コバナナ」
片付けからお母さんに合うまで、エレベータの中でも、
ずーっと嬉しそうに繰り返しながら帰っていく様子を懐かしく思い出されました。

今では絶対音感もついて、アーティキュレーションまでも、
できる限り再現しようとするまでになっています。

曲の仕上げの段階では、ぐりもついつい熱が入ってしまい、
高めの要求をしてしまうことがあるのですが、そんな時もガッツでついてきますし、
寧ろ、そういうときほど何かが通じ合った感じがして、
お互いに顔を見合わせてすがすがしく笑い、満足そうな顔で帰っていくトムくんです。

遊びの延長線上にある練習

ゲームのように自分でルールを設定して取り組んだり、
お母さんと決めたルールを工夫して乗り越えていくことを真剣に楽しむこと。
それが、単調な中からの新しい発見、真似からの理解へと、
物事の本質を深く探ることにもつながるのではないかと思っています。

幼いころからのそういったものの見方や考え方は、遊び心やユーモアを養い、
将来、トムくんが、型にはまることなく、自分のスタイルを確立していく基盤になればと考えています。

どこかしら敏感
どこかしら人とちがう

弱みでもあると同時に強みでもあるそれらを
個性や自己表現として活かすために築き上げていく作業は、
社会に出るための道具をひとつひとつ手に入れていくようなものです。
早期に入手したものは固定観念にとらわれず、さらに磨かれて
自由自在に使いこなせるようにもなるでしょう。


今後、トムくんがたくさんの経験を積み、質の高い感動体験をすることで、
その発想力は、より一層磨きがかかることでしょう。
それは同時に、たくさんある情報の中から取捨選択する能力を高めることでもあります。

努力に勝る天才なし
経験に勝る知識なし

トムくんにピッタリな言葉だと思います。
そして、それはお母さん譲りであるということは特筆するまでもありません。

マナーや礼儀、 練習の段取りや、何を要求されているかを読み取る、
それに向けての意識や行動、そこに伴う感動やふれあい

トムくんは、社会で必要とされる多くのことをレッスンから吸収しています。

この先、成長の過程で苦しいこともあるかもしれませんが、
その時にこそ、レッスンで培ったものを活かせるよう願っています。

ブルグミュラーに進んでからの、この1年のトムくんの音楽的成長が、
お母さんにとっても、今までの努力が報われて1つの自信につながることになれば、
それもまた、本当に心から嬉しく思います。

トムくん、ぐりはキミの全く嫌味のないストレートな言葉にハッとさせられることがあります。
どうぞ今のまま、感じたことを自分の言葉で表すことをおそれずに。
また、言葉にできないときは、自分で音にしたり、音楽を選ぶことで気持ちを表現してください。

表現力をつけることは、人からの理解を得られ、つながりを深められることにもなります。
あなたの素晴らしさが、一人でも多くの人に伝わることを
ぐりは、いつも願っています。

ありがとう。



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この記事へのコメント
継続は力なり

でもあるね。

立派なお母さん。
Posted by なかじー at 2015年02月17日 18:42
亡くなった祖母が、「好きな人ができたら必ずお母さんを見なさい」と、よく言っていた意味がわかりましたww
Posted by 守口 菜穂 at 2015年02月17日 22:27
知識やノウハウは手軽に得られる時代だけど、
そんな薄っぺらさは、見る人が見れば一目瞭然。
そんな輩は、どの業界にもいるよ。

子どもの頃から体に叩き込まれたことは、目を閉じていても勝手にやってしまうくらいに身に付いている。
だから家庭ももちろん、先生選びが将来を左右すると言っても過言ではないということだ。

ぐりさんは、お母さんの大変だった姿を知ってるわけだね。
長く続けていらっしゃる生徒さんだから得られる存在なんだね。
素晴らしいお母さんだと思うよ。
Posted by ぐっさん at 2015年02月17日 22:43
あ!せきれい!!
私もブルグ好きでした。
ピアノを弾ける男の子ってカッコいいです。
Posted by nao at 2015年02月18日 23:34
神の手と言われる名医たちは執刀回数が突出している訳ですよね。
最近どこでもピアノ教室が発達障害を掲げていますが、やみくもなレッスンを長く受けた結果、先々不適応を起こすことの怖さまでは考えていないのではないでしょうか。
少なくとも、ぐりさんの生徒さんたち皆さんに明るい将来が訪れますよう。
Posted by 茉莉音 at 2015年02月19日 18:20
いいぞ、能力開発されてるねww

それにしても、ぐりさんのプロ意識はハンパないね。
Posted by ニシダヒガシダ at 2015年03月13日 14:35
ぐりさんのことですから、高い演奏技術と表現力を徹底して教えて差し上げていらっしゃることでしょう。

ネコちゃんのお話は確かに不思議ですが、ぐりさんの優秀な生徒さんならではのような気もします。
きっと純粋で感受性豊かなのでしょうね。 
Posted by フェリーチェ at 2015年03月13日 23:56
 
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