2013年09月29日

発達障害の子どもと親を支える療育ピアノレッスン

1年生トムくん。

ぐりの教室に通ってくださるようになって3年目になりました。

毎週、テキストを見なくても弾けるほどに仕上げてくるし、
本を開く合間に、以前に合格したお気に入りの曲たちを弾く様子から、
身体で覚えるまで相当に弾き込んでいると、わかります。


「ふーん・・・なんかいっぱいポコポコしてる。おもしろい」

子どもたちは、譜面台の隙間からピアノの中をよくのぞいていますが、
指を見なくても曲が弾けるとハンマーの動きに注目することができ、一層興味深さが増すようです。

よほど面白いのか、何度も自分で弾いてはハンマーを確かめています。


「こっちで弾くと、どうかな?」

ピアノランド3の『コロコロコロッケ』を高音部で弾きはじめます。

「あ・・小さーい」

ねずみさんのコロッケは小さすぎて、先生、お腹いっぱいにならんな・・・

「わはははっは!!! 低いとこで弾いてみるよ」

「う、ゾウさんのコロッケは大きいね、全部食べれるやろか・・・あーむっ!!」

「ぐふふふ、次この曲も弾いてみる」

ピアノランド3の曲を次々と低音部で。ほとんど暗譜しています。

うーわっ!!こわっ!!

わはははhっははっははhはは!!!!!  ( ´∀`)人(´∀` )


活発に外を走り回ったり、ひょうきんなキャラクターがでてきましたが、

「ボク、この曲好きなの」

と、トムくんが選ぶ曲は、しっとりした曲が多いです。


『大きな古時計』も、お気に入りのひとつ。

「ねぇ、なんでこの時計とまっちゃったのぉ?」

うーん、なんでかなぁ。トムくんは、どう思う?

「こわれちゃったの?時計、まだあるのぉ?」

どうなんだろうねぇ・・


なんて素敵な疑問でしょう。

想像して楽しむこと、
ぐりとの会話で それをさらに膨らませて楽しさを共有すること


豊かな時間が流れます。


余談ですが、『ちびまる子ちゃん』の「大野くんと杉山君」の回でも出てくるこの歌。
まるちゃんの『大きな古時計』の解釈も、ぐりは素敵だなと思います。
すっごく限られた人にしかわからん話で、あいすみません。。。



楽器、音楽を学ぶということに関して、
模範的(笑)で、ぐりが理想とするレッスンをこなしてくれますね(笑)



2年前、トムくんと出会った頃のは年中さん。

車で片道1時間弱の道のり。
眠くて駐車場からメソメソしながらやってくることも多かったし、
教室でパニックを起こして鼻血を出したこともありました。

ピアノを弾きながら、うつらうつらすることもありましたし、
体調の悪さも重なって、部屋のすみっこに座り込んで動かないこともありました。

まだ歩き始めたばかりの下のお子さんを抱えながら
グズグズ言って暴れるトムくんの背中を押す小柄なお母さん。

そんな状態が3、4ヶ月続いたでしょうか。

どんなにグズっていても帰るときはニコニコになることが、せめてもの救いでしたが、
駐車場からここまでお連れ頂くだけでも一苦労で、
それでも毎回、懸命に手を引いてお連れ下さる
お母さんには頭が下がる思いでした。

まだ毎日毎日、至る所で騒動を引き起こしていた頃、

園の行事の最中にトムくんがハチャメチャを起こしてしまい、
中断してしまうというアクシデント。

本人はどうかわかりませんが、
小さな一つ一つが何か親子で挫折感を感じてしまう今日この頃です。
一瞬一瞬を楽しんでトータルで楽しい日々にしてほしいと思います。


お母さんからのメールです。
徒労感とやるせなさがにじみ出ていて胸が痛みました。


あまりにもたくさんの『衝撃の現場』を目撃すると、
気持ちも萎えて深く傷付きますね。

その頃のお母さんは、見るからに本当に疲れ果てているご様子でした。


眠い、上手くできない、わからない、疲れた、お腹すいた、ドキドキする、驚いた・・・

些細なことと思われることでも
『怒る』という感情表現に直結してしまうタイプの発達障害を抱える子どもたち。


その頃のトムくんは、
ぐりが隣で一緒にピアノを弾いたり、手拍子で拍をとったりすると
「もぉー、先生は やらないで」
と、必ずすぐに怒っていましたし、
リズムやソルフェージュの時も、
よく聞き取れないためか「もぉー!!」と、本当によく怒っていました。


インプットの困難によるアウトプットの困難。


感覚機能のトレーニングにより、
半年過ぎたあたりから次第に積極的になっていきました。

変化としては、視野が広がって追従がうまくなり、
楽譜と鍵盤を視線を交互にを見ながら弾けるようになったこと。

あとは、言葉や音を明瞭に聞き取れるようになったことで、
模倣すること、歌うことの面白さがわかり、
「ねぇ、先生!!あれ歌いたーい!」
と、リクエストしたり、帰り支度をしながら鼻歌がでるようになったことです。


ですが、それと同時に感覚刺激を強く求めるようにもなってきました。

ガターン!と大きな音をたててコケてみたり、
急に ぐりにベタベタくっついてジャレるようになったのも、この頃です。
(これは今まで興味のなかったコミュニケーション力の表れで
トムくんの愛情表現からのスキンシップでもあります)

ひと通り気が済むと(笑)それも次第にみられなくなりました。


困難を抱えるお子さん(大人も)たちは、
安心して落ち着いた環境では能力を発揮し、たくさんのことを吸収します。
そしてそれが自信につながり、別のことや、他の場所でもスムーズに行動できるようになるのです。


ぐりの教室で、レッスン中にはできなくてもいい。
よそで誰かに褒められた時、認められた時にこそ、
レッスンが活かされます。


レッスン開始1年後、年長さんの頃には、
トムくんの本来の朗らかさがでてきて
幼稚園では『ムードメーカー』と言われるほどの存在になりました。

そしてなにより、お母さんの表情が柔らかくなったことにとても安心しました。


1年生になったトムくんは、学校が毎日楽しそうです。
気持ちの切り替えも、ずいぶんと早くできるようになりました。
お母さんからすると、まだまだなのだそうですが、
お母さんはそれぐらいの冷静なお気持ちで見ていただき、
周りから見ると大丈夫ってくらいがいいのかもしれませんね(笑)

「ボクねぇ、ピアノ大好きなの。
毎日学校から帰ったらねぇ、ずーっと弾いてんだよ」


トムくんが、ぐりのピアノで遊んでいる姿は、幼い日のぐりと重なります。
ぐりの先生の前では、彼のようなことをさせてもらえませんでしたけどね。。。汗

新しい曲になる度、弾けるようになるのはものすごく大変なことなんだろうとは思いますが、
練習もくじけそうになりながら諦めずに頑張っています。


最近のお母さんのメールには、こう書かれていました。

『諦めずに頑張っています』
ぐりには、
お母さんのトムくんに対する
日々のお気持ちそのもののように感じられたのでした。


練習したらできた!!という
幼い頃からの努力と成功体験の積み重ねが、
彼の根っことなり、自分で自分をしっかり支えられるよう地中深く張り巡らされ、
10年後、20年後には必ず夢と希望の若葉が色濃く生い茂ることでしょう。

好きなこと、夢中になれることをひとつもつということが、
発達障害のお子さんたちを救い、また親御さんたちも救われることにつながるのです。

そこには、見えない部分でのお母さんの並々ならぬ頑張りがあってこそ。

久しぶりのよく弾ける生徒さんに、ぐりも腕がなります。
トムくん、ぐりはいつでも応援しています。
ありがとう。



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この記事へのコメント
好きになるには、先生のことも好きじゃないと。
うーん、先生が好きだからピアノも好き、かなww
Posted by nao at 2013年09月29日 21:26
資格や肩書きというものが、子どもにとっていかに無意味なものか。
子どもは正直です。
みんな、先生が大好きなんですね。
Posted by なかじー at 2013年09月30日 20:38
まるで心の柔軟剤、または足りない栄養を補うサプリメントみたいな方ですね。

ぐりさんの教室に通うことで、日常の歯車も上手く回り始める、
といった感じでしょうか。
Posted by ぐっさん at 2013年10月01日 11:04
発達障害だけでなく、癌やうつの生徒さんも通っていらっしゃるとか。

とても自然でおおらかなぐりさんとお会いするだけでも、皆さん少しずつ自分を受け入れられるようになるのでしょうね。

私もその一人です(^-^)
ありがとうございます。
Posted by 茉莉音 at 2013年10月01日 14:20
なんだか切なくて涙がでました。
頑張りやさんのお母さんだから先生と巡り会えたのでしょうね。
先生のレッスンを受けて伸びていくお子さんの姿に、お母さんも自信がわきますよね。

ぐり先生のような方を発達障害のペアレントメンターと呼ぶのだそうです。

でも、先生は『素』のお人柄そのままですものね。

どなたかのコメントにありましたが、発達障害でも介護でも、当事者にとっては資格や肩書きなどは関係ないのですよね。
本当にその通りだと思います。
Posted by なっちママ at 2013年10月06日 22:58
 
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